「今さら始めても、覚えられないかもしれない」
スマートフォンの新しい機能、初めての楽器、行ったことのない場所。興味はあるのに、失敗するのが恥ずかしくて、いつもの方法を選んでしまうことがあります。
けれど、脳にとって「分からない」「思った通りにいかない」は、学びが始まる場面でもあります。
予想と結果が違うから、次のやり方を考える
脳科学者の毛内拡先生は、脳は予測する臓器であり、予測と結果の間に誤差があると、その違いをもとに学習すると説明しています。
初めて自転車に乗ったとき、最初から完璧にバランスを取れた人はほとんどいません。右へ傾いた、力を入れすぎた、ペダルを止めたら倒れた。小さな失敗を繰り返しながら、身体と脳が次の動きを調整します。
失敗そのものを目的にする必要はありません。大切なのは、間違いを「能力がない証拠」にせず、次の一回を変えるための情報として扱うことです。
大人の脳にも、学習に伴う変化が見つかっている
成人の脳の可塑性を示す研究として、ロンドンのタクシー運転手候補を追跡した研究があります。
ロンドンの複雑な道路を覚える訓練を約4年間続けた人たちを調べたところ、資格試験に合格した人では、空間記憶に関わる海馬の一部に灰白質量の増加が観察されました。
この研究だけで「新しいことをすれば認知症を予防できる」とは言えません。一方で、成人の脳も、長期間の能動的な学習に伴って変化しうることを示しています。
年齢を重ねた脳は、何をしても変わらない。その思い込みは、少し見直してよさそうです。
脳が動き出す「小さな初めて」
大きな資格や難しい趣味を始めなくても構いません。今日の生活に、少しだけ予想外をつくってみます。
いつもと違う道を歩く
安全を確認したうえで、一つ手前の角を曲がる、違う公園を通る。景色や目印を見ながら歩くと、受け身ではない探索になります。
操作を一つ、人任せにしない
スマートフォンの写真整理、オンライン会議への参加、電子決済。すぐに誰かへ頼む前に、説明を読みながら一度試してみます。
初心者として教わる
歌、楽器、運動、料理、外国語。上手に見せようとせず、「分からないので教えてください」と言える場所へ参加します。
一日の終わりに、失敗を言い換える
「できなかった」で終わらせず、「次は何を一つ変えるか」を書きます。失敗を反省会ではなく、試行錯誤の記録にします。
挑戦できる人をつくるのは、安心できる関係
新しいことへ踏み出すには、失敗しても笑われない環境が必要です。家庭でも職場でも、「なぜできないの」と先に答えを渡すより、「どこまで分かった?」「次はどう試す?」と一緒に考える関わり方が、能動的な学びを支えます。
脳を活性化することは、一人で問題を解き続けることだけではありません。人と話し、教わり、教え、違う考えに出会うことも、日常に新しい刺激をつくります。
新しいことへ挑戦した日は、脳に入ってきた情報を整理するために、休むことも大切です。睡眠と脳の関係については、前回の記事で詳しく紹介しています。
寝ている間も、脳は働いている。睡眠を「何もしない時間」にしない脳科学
「もう遅い」から、「今日は何を始めよう」へ
認知脳活性アドバイザー®養成講座では、脳に対する思い込みを見直し、話す、聴く、考える、声や身体を使う、人と交流するといった身近な活動を、脳の視点から学びます。
「もう遅い」ではなく、「今日は何を初めてやってみよう」と考えられる自分でいたい方は、講座の内容をご確認ください。
※本記事および講座は、認知症その他の疾病の診断・治療・予防効果を保証するものではありません。
